
非上場株式は証券取引所に上場されていない株式であるため、市場価格が存在しません。
したがって、売買・相続・贈与などを行う際には、特有の評価方法や手続きが必要です。
この記事では非上場株式の評価手法や課税される税金の仕組みに加え、株式譲渡がもたらす利点や具体的な手続きの流れまで幅広く解説いたします。
非上場株式とは
非上場株式とは、証券取引所に公開されていない株式を指します。
「未公開株」や「非公開株」とも呼ばれ、公開市場での自由な取引ができないため、明確な市場価格が形成されません。
このような特性から、一般的な上場株式と比較すると売買が著しく制限されています。
市場価格が存在しなくても、個別交渉やM&Aなどいくつかの方法で株式移転は実現可能ですが、ほとんどの非上場企業が定款などで株式譲渡に何らかの制約を設けているのが実情です。
非上場株式を譲渡する3つのメリット
取引が容易ではない非上場株式ですが、譲渡によって実現できる重要な利点があります。主な利点は次の3点です。
- 大規模な資金を確保できる
- 税負担の軽減が可能になる
- 円滑な事業承継を実現できる
企業運営に必要な資金調達や次世代への経営権移転を目的として活用されることが多く、評価額の状況によっては相続よりも税金面で有利になるケースもあります。
評価方法は上場株式とは大きく異なるため、事前に試算して目標達成が見込めるか検証しておくことをおすすめします。
それぞれの利点について詳しく見ていきましょう。
大規模な資金を確保できる
取締役会の承認など様々な条件が課せられていることが一般的ですが、非上場株式でも売却による資金化は不可能ではありません。
事業拡大や新規投資などの局面で借入に依存せずにまとまった資金を調達できる点は経営上の大きな強みとなります。
ただし、非上場株式は上場株式と異なり公開された価格指標がないため、特殊な評価方式で金額を決定する必要があります。
計算過程は複雑ですが、企業の成長性や資産状況によっては予想以上の高評価が得られることもあるでしょう。
税負担の軽減が可能になる
非上場株式を計画的に譲渡することで、相続時より税金面で有利になる可能性があります。
相続税は財産額に応じて税率が上昇する累進課税制度が採用されており、最高で55%という高税率が適用されます。
一方、個人間での株式譲渡に適用される税率は20.315%となっています。
相続税が累進課税であることを考慮すると、財産規模によっては相続対策として生前に株式譲渡を選択することが賢明な場合もあります。
また、法人への譲渡においても税制上の恩恵が期待できます。
ただし、具体的な税負担軽減効果は個人の所得状況や企業規模などの要因で変動するため、個別ケースごとの検討が必要です。
参考:国税庁『No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)』
円滑な事業承継を実現できる
非上場株式の保有者が後継者に経営権を引き継ぎたい場合、株式譲渡は極めて有効な手段です。
企業オーナーが後継者への株式移転を行わないまま他界すると、保有株式は相続財産として扱われます。
長年にわたり業績を伸ばしてきた企業であれば、株式評価額が巨額になることも珍しくなく、それに伴う相続税負担も膨大になります。
流動性に乏しい非上場株式では、相続税納付のための現金確保が困難となり、最悪の場合は事業存続そのものが危ぶまれる事態に陥る可能性もあります。
このようなリスクを回避するためにも、健全な企業を存続させるには、経営者が早期から事業承継プランを構築することが極めて重要です。
また、発行済株式の過半数を譲渡することで、経営権の確実な移転が可能になります。
非上場株式の譲渡を行う際の注意点
非上場株式の譲渡にはさまざまな利点がありますが、同時に留意すべき重要な点もいくつか存在します。主な注意点は以下の通りです。
- 経営権限全体が移転する可能性がある
- 詳細かつ正確な情報開示が求められる
- 譲渡制限株式では株主総会の承認手続きが不可欠
いくら株式を譲渡したい相手が見つかったとしても、オーナー個人の意向だけで手続きを進めることはできません。
正式な承認プロセスを踏む必要があるほか、訴訟問題や経営上の課題を抱えている場合には、それらの情報も正確に伝える義務があります。
また、株式譲渡は経営権の移転を意味するため、経営の主導権をどの程度手放すかについても慎重な判断が求められます。
以下では、非上場株式の譲渡において特に注意すべき3つのポイントについて詳しく説明します。
経営権限全体が移転する可能性がある
株式譲渡において、全株式を手放す場合、経営に関する権限もすべて移転します。
この結果、元の株主は会社経営に対する発言権を完全に失い、新たな株主が経営決定における議決権を獲得することになります。
また、すべての株式を譲渡した後で、元の株主が何らかの経営権を保持することは基本的に難しいでしょう。
ただし、必ずしもすべてのケースで議決権のある株式の100%が譲渡されるわけではありません。
譲渡側が一定の権限を維持したい場合には、株式の譲渡比率を調整することで対応できます。
詳細かつ正確な情報開示が求められる
株式譲渡の過程では、譲渡する企業が抱える経営リスクの有無を確認するために、デューデリジェンスという詳細な調査が欠かせません。
デューデリジェンスでは、株式を取得する側が取引相手の内部事情や保有資産を細かく調べ、良い面も悪い面も含めて全体像を把握します。
このとき譲渡する側も、簿外債務や潜在的な訴訟リスク、従業員との関係性などについて正確な情報を提供し、調査に協力することが大切です。
もし譲渡前に重要情報を意図的に隠したり、実態を誇張したりすると、後日、譲受側が予想外のリスクに直面して損失を被り、賠償請求などの深刻なトラブルに発展する恐れがあります。
譲渡制限株式では株主総会の承認手続きが不可欠
非上場企業の多くは、外部者が簡単に経営権を握ることを防ぐため、株式譲渡に制限を設けています。
そのため、制限付きの株式を譲渡するには、株主総会での正式な承認手続きが必要となります。
譲渡承認の請求から2週間以内に結果を譲受側に通知することが法的に求められています。
もし期限内に通知を怠ると、たとえ実際には承認されていなくても、法律上は承認されたものとみなされてしまいます。
非上場株式の評価方法
非上場株式の評価方法は、その活用目的によって評価手法が異なります。
例えば、M&Aや出資など市場取引を前提とした場面では、DCF法(ディスカウント・キャッシュフロー法)やマルチプル法などの企業価値評価が用いられるのが一般的です。
一方、相続・贈与・親族間譲渡など税務上の評価においては、
次の3つの方法が採用されます。
- 類似業種比準方式
- 純資産価額方式
- 配当還元方式
基本的に、企業規模が大きい場合は類似業種比準方式、小規模な場合は純資産価額方式が適用されます。
中規模企業では、両方の評価方法を組み合わせて使用するのが一般的です。
また、同族経営の企業において同族株主以外が株式を取得した場合は、企業規模に関わらず配当還元方式(特例的評価方式)が採用されます。
どの評価方式が適用されるかを事前に把握しておくことが非常に重要です。
類似業種比準方式
類似業種比準方式は、大企業に分類される規模の会社で広く採用されています。
この方式では、同じ業種に属する上場企業の情報を基準として、評価対象となる非上場企業の価値を算定します。
評価の参考とする指標は、配当金額、利益金額、純資産価額の3要素で、1株あたりの金額を比較することで最終的な評価額を決定します。
上場企業との類似性をもとに算出するため、成長性や収益力が適切に反映されやすいという特徴を覚えておきましょう。
純資産価額方式
純資産価額方式は、小規模会社に分類される非上場企業の株式評価で使用されます。
この方式では、会社が解散した場合に株主へ分配される正味財産を基準に評価額を算出します。計算手順は次のとおりです。
- 企業の相続税評価額に基づく総資産価額から総負債額を差し引き、純資産価額を求める
- この純資産価額から帳簿上の純資産価額を引いて評価差額を算出する
- 評価差額に37%の法人税等相当額を乗じて控除額を算出する
- 法人税等相当額を控除した純資産価額を最終的な評価額とする
この方式は企業の資産価値を重視するため、不動産などの含み益がある企業では評価額が高くなる傾向があります。
配当還元方式
配当還元方式は、同族株主が存在する企業において、経営への影響力をもたない少数株主が取得した株式の評価額を算出するために用いられます。
この条件を満たせば、企業規模に関係なく適用可能です。
評価方法としては、過去の配当実績から将来の株式配当を予測し、その価値を現在価値に換算して評価額を決定します。
この配当還元方式は他の2つの方式と比較して、一般的に評価額が低くなりやすいという特徴があります。
配当実績がない、または少ない企業の株式では、特に評価額が抑えられる傾向にあるため、相続税対策などの観点からメリットがある場合もあります。
非上場株式の譲渡方法
非上場株式は多くの場合、自由な取引に制限が設けられていますが、譲渡する方法自体はいくつか存在します。
主な譲渡方法としては以下の5つが挙げられます。
- M&A(合併・買収)
- 個人間の直接交渉
- 相続・贈与による移転
- ストックオプションの活用
- クラウドファンディングを通じた譲渡
株式が譲渡される背景は多種多様です。
家族経営の企業では相続や贈与によって株式が移転するケースがある一方、後継者不在により外部へ売却されるケースもあります。
また、新興企業ではストックオプション制度を通じて従業員へ無償譲渡することもあれば、近年ではクラウドファンディングの投資リターンとして非上場株式が設定されることも増えています。
以下、これら5つの株式譲渡方法について詳しく解説します。
M&A(合併・買収)
社内や親族内に適切な後継者がおらず、事業継続が困難になった場合、外部から新たな経営者を招き入れ、M&Aによる事業承継を選択するケースが近年増加しています。
M&Aの実行手段としては、株式譲渡のほかに事業譲渡や会社分割などがありますが、特に中小企業のM&A案件では株式譲渡方式が多く採用されている状況です。
株式譲渡は手続きが比較的シンプルで、企業における変更点も株主名程度にとどまるため、事業の引き継ぎがスムーズに進むという利点があると言えます。
M&Aにおいては、譲渡対象となる非上場株式の評価が重要なステップです。
この評価には大きく分けて以下の2つがあるのでご紹介します。
・相続税評価:相続や贈与、家族間売買などで用いられる評価方法。税務上の評価額として基準とされます。
・企業価値評価:M&Aやエクイティファイナンス(資金調達)などで用いられる、市場性や収益性を加味した評価方法。
実際のM&Aにおいては、相続税評価だけでなく、企業価値評価に基づいた価格交渉が行われることが一般的です。
そのため、株式評価に関しては両方の視点を理解しておきましょう。
個人間の直接交渉
非上場株式の譲渡は、個人間での直接交渉によっても実現可能です。
しかし、未公開株式を取り扱う性質上、すでに信頼関係が構築されていることが前提条件となり、まったくつながりのない状態では交渉を始めること自体が難しいケースが多いでしょう。
また、譲渡制限がある場合は会社の承認手続きも必要となるため、完全に当事者間だけで完結するわけではありません。
相続・贈与による移転
非上場株式は相続財産の一部として扱われ、株主が死亡した場合には法定相続人へ引き継がれるほか、生前に贈与することも可能です。
ただし、贈与税は相続税と比較して税率が高くなりやすい点に注意が必要です。
贈与契約を結んで無償譲渡を行っても、株式の評価額が大きい場合は累進課税方式により高額な税金が課せられます。
税負担を抑えるためには、非課税枠内で毎年少しずつ贈与するなどの計画的な対応が求められます。
ストックオプションの活用
ストックオプションとは、特定の条件下で自社株を事前に定めた金額で購入できる権利のことです。
このストックオプション付与は、主にベンチャー企業が従業員のモチベーション向上を図る目的で導入することが多い制度です。
将来の上場を見据えている段階でストックオプションをあらかじめ付与しておくことで、権利行使時に従業員は市場価格よりも安価に自社株を取得できるというメリットがあります。
クラウドファンディングを通じた譲渡
近年では株式投資型クラウドファンディングが登場し、個人投資家でも非上場企業への投資機会が広がっています。
投資の見返りとして非上場株式の譲渡が設定されていれば、出資者は株式を受け取ることができます。
ただし、取得した時点では市場での売買が困難であるため、極めて換金性が低いという点には十分な注意が必要です。
上場予定のない企業の場合、長期間にわたり株式を保有し続けることになる可能性が高いでしょう。
非上場株式の譲渡手続き
非上場株式の譲渡手続きを進める際には、まず譲渡制限の有無を確認した上で、以下の4つの段階を順に進める必要があります。
- 合意・株式譲渡承認の請求書作成
- 株式譲渡の承認手続き
- 株式譲渡契約の締結・支払い
- 株式名簿の書き換え
ここでは、各段階で必要となる具体的な手続きの内容について詳しく解説します。
1. 合意・株式譲渡承認の請求書作成
最初のステップとして、譲渡に関する当事者間の合意が得られたら、譲渡対象となる企業における譲渡制限の有無を確認します。
多くの非上場企業では定款に譲渡制限条項が設けられているため、この確認作業は非常に重要です。
確認後、株式譲渡承認の請求書を作成します。
この請求書には、譲渡予定の株式の種類、株数、譲渡価額などの具体的な情報を明記する必要があります。
正確な情報を記載することで、後の手続きがスムーズに進みます。
2. 株式譲渡の承認手続き
譲渡制限がある場合、取締役会もしくは株主総会での正式な承認を受ける必要があります。
原則として、取締役会が設置されている企業では取締役会の承認が必要となり、取締役会が設置されていない企業では株主総会での承認が求められます。
承認プロセスを経て譲渡が認められた場合、請求者にその旨が通知されます。この通知は譲渡手続きを進める上での重要な証明となるため、適切に保管しておくことをおすすめします。
3. 株式譲渡契約の締結・支払い
株式譲渡の承認を取得した後は、デューデリジェンス(企業調査)を実施した上で、株式譲渡契約書を作成し、正式に契約を締結します。
この契約書には譲渡価額だけでなく、支払方法や期日なども詳細に明記されます。
契約書に基づいて支払いが完了することで、法的に契約が成立したとみなされます。
なお、無償での贈与を行う場合でも、当事者間の合意に基づく贈与契約の締結が必要です。
この段階での適切な文書作成は、後のトラブル防止に役立ちます。
4. 株式名簿の書き換え
非上場企業のほとんどは株券を発行していないため、株主情報は株式名簿によって管理されています。
そのため、株式譲渡契約が完了した後には、会社に対して株主名簿の書き換えを依頼する必要があります。
株主名簿が正式に更新されることで、新しい株主としての権利が法的に保証され、すべての譲渡手続きが完了します。
この手続きを怠ると、配当金の受け取りや株主総会での議決権行使などの株主権利に影響が出る可能性があるため、確実に行うことが大切です。
非上場株式の譲渡にかかる税金
非上場株式を譲渡する際の税金は、譲渡主体が経営者個人なのか法人なのかによって異なります。
また、一族経営企業などで株式を親族に譲渡する場合には、後継者の税負担を軽減できる特別な事業承継税制も用意されています。
ここでは、各ケースにおいて必要となる税金の種類や計算方法について詳しく解説します。
経営者個人から譲渡する場合
非上場企業では経営者自身が主要株主であることが一般的です。
個人から株式を譲渡する場合、譲渡所得に対して個人への課税が発生します。
具体的には、譲渡価格から取得費などの必要経費を差し引いて譲渡所得を計算し、これに対して所得税、復興特別所得税、住民税が課されます。
取得費が不明確な場合や極めて低額の場合には、譲渡価格の5%を取得費とみなして計算することが税法上認められています。
これは「みなし取得費」と呼ばれる特例です。
株式譲渡に対する所得税率は一律15%で、これに住民税5%、復興特別所得税0.315%(所得税額の2.1%)を加えると、合計税率は20.315%となります。
この税率は上場株式の譲渡と同じですが、非上場株式の場合は評価額の算定方法が異なる点に注意が必要です。
参考:国税庁『No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)』
法人から譲渡する場合
法人が株式を譲渡する場合は、法人税や地方法人税、住民税などが課税対象となります。
個人の場合と同様に、譲渡価格から取得費などの必要経費を差し引いて譲渡所得を算出し、これに対して税金が課されます。
法人税の税率は企業の規模や所得金額によって変動します。
中小法人の場合、実効税率(法人税、地方法人税、法人住民税、事業税を含む)は以下の通りとなります(令和7年度度現在)
・年間所得800万円以下の部分:約25%
・年間所得800万円を超える部分:約33%
注意すべき点として、個人の場合と異なり、法人の株式譲渡では「みなし取得費」の特例(譲渡価格の5%を取得費とする計算方法)は適用されません。
そのため、正確な取得費の記録を保持しておくことが重要です。
無償で身内へ譲渡する場合
非上場株式を無償で親族などに譲渡する場合、その時期によって贈与税または相続税が課税されます。
どちらの税金も累進課税方式を採用しているため、贈与額や相続額が大きくなるほど税率も上昇し、納税額が高額になります。
節税対策としては、生前に少額ずつ計画的に贈与を進める方法や、合法的な手段で株式の評価額を下げてから譲渡する方法などが考えられます。
しかし、非上場株式は換金性が低いため、相続税や贈与税の支払いが事業継続の妨げになる可能性もあります。
そこで、円滑な事業承継を支援するために「事業承継税制」という特別な制度が設けられています。
法人版事業承継税制では、一定の要件を満たすことで贈与税や相続税の納税が猶予されたり、場合によっては免除されたりします。
この制度を適用するには、各都道府県の窓口で「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」に基づく認定を受けることが必要です。
事前の計画策定や申請手続きが必要となるため、専門家への相談を検討することをおすすめします。
まとめ
事業承継は、親族間での世代交代はもちろん、社外への非上場株式譲渡によっても実現可能です。自社の状況に適した方法を早期に検討することが重要です。
しかし、さまざまな要因を考慮して最適な時期や方法を選択することは容易ではありません。
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