
相続で取得した不動産を手放すことを検討していませんか。
不動産を売却したときには税金の支払い義務が生じるため、納税に不安を感じる方も少なくありません。
実際には複数の種類の税金が課される可能性があるため、事前の理解と準備が重要です。
この記事では、相続不動産の売却で発生する税金の種類や、税負担を軽減できる特例の内容について詳しく説明します。
取引をスムーズに進めるために必要な知識を整理し、後悔のない形で売却手続きを進めましょう。
目次
相続不動産の売却で発生する5つの税金
相続で得た不動産を売るときには、必ず税金の支払いが発生します。代表的な税金は以下の5種類です。
1:譲渡所得税
2:住民税
3:印紙税
4:登録免許税
5:仲介手数料にかかる消費税
税金の内容を理解せずに売却を進めると、思わぬ税負担に驚くことがあります。不動産売却にかかる税金は事前に理解しておくことが重要です。ここからは、それぞれの税金の特徴を詳しく説明します。
1:譲渡所得税
1つ目は譲渡所得税です。
不動産売却で得た利益に対して課税される税金で、売却益がある場合に支払いが発生します。
所有期間の判定は、譲渡した年の1月1日時点で5年以下か5年超かによって区分されます。
区分ごとの所得税率は以下の通りです。
| 所有期間 | 区分 | 税率(所得税) |
| 5年以下 | 短期譲渡所得 | 30% |
| 5年超 | 長期譲渡所得 | 15% |
なお、これらの税率に加えて令和19年までは「復興特別所得税(所得税額の2.1%)」が加算されるため、実際の税負担は上記よりも若干高くなります。
譲渡所得は、売却額から取得費と譲渡費用を差し引いた金額で計算します。
譲渡所得=売却額−取得費−譲渡費用
取得費は購入価格や関連費用から減価償却費を引いた額で、譲渡費用には売却にかかる手数料や税金などが含まれます。
取得費の例
・購入価格から減価償却費を引いた金額
・購入時に支払った設備や改良の費用
・購入時に納めた印紙税・不動産取得税・登録免許税
譲渡費用の例
・契約時に支払う印紙税
・不動産会社への仲介手数料
・賃貸物件売却時の立退料
・借地権譲渡時の名義書換料
課税額を抑えるには、取得費や譲渡費用を正確に計上することが不可欠です。契約書や領収書などの証明資料をきちんと保管しましょう。
2:住民税
2つ目は住民税です。
譲渡所得税と同じく、所有期間によって税率が変わります。
短期譲渡所得の住民税は9%、長期譲渡所得の住民税は5%です。
短期譲渡所得は税率が高いため、所有期間の確認は重要です。
| 区分 | 5年以下(短期譲渡所得) | 5年超(長期譲渡所得) |
| 所得税 | 10% | 15% |
| 住民税 | 4% | 5% |
| 合計 | 14% | 20% |
3:印紙税
3つ目は印紙税です。
不動産売買契約を結ぶ際には、契約金額に応じて売買契約書に収入印紙を貼付し納税します。
課税金額は以下の表の通りです。なお、成約金額が10万円未満は200円(軽減税率対象外)、1万円未満は非課税となります。
| 成約金額 | 印紙税額 | 軽減税率 (令和9年3月31日まで) |
| 10万円超〜50万円以下 | 200円 | 200円 |
| 50万円超〜100万円以下 | 1000円 | 500円 |
| 100万円超〜500万円以下 | 1,000円 | 1,000円 |
| 500万円超〜1,000万円以下 | 5,000円 | 5,000円 |
| 1,000万円超〜5,000万円以下 | 1万円 | 1万円 |
| 5,000万円超〜1億円以下 | 2万円 | 3万円 |
| 1億円超〜5億円以下 | 6万円 | 6万円 |
| 5億円超〜10億円以下 | 20万円 | 16万円 |
| 10億円超〜50億円以下 | 40万円 | 32万円 |
| 50億円超 | 60万円 | 48万円 |
4:登録免許税
4つ目は登録免許税です。
不動産の所有者が変わるときには、所有権移転登記が必要です。
通常は買主が負担しますが、住宅ローン返済のために抵当権を抹消する場合は売主も費用が発生します。
抵当権抹消登記には不動産1筆につき1,000円の登録免許税が必要です。
土地と建物それぞれに課税されるため、複数筆がある場合はその分の費用を計算しましょう。
5:仲介手数料にかかる消費税
5つ目は仲介手数料にかかる消費税です。
不動産会社に売却を依頼する場合、成功報酬として仲介手数料を支払います。
この手数料には消費税が上乗せされるため、事前に費用を把握しておく必要があります。
不動産を売却すると、これら5種類の税金が関わる可能性があります。
売却前に内容を把握しておくことで、想定外の税負担を避けましょう。
相続不動産売却で用いる取得時期は被相続人の取得日
相続した不動産の売却で譲渡所得を計算するときには、取得時期の扱いに注意が必要です。取得時期は相続した時点ではなく、被相続人が不動産を取得した日となります。
つまり、相続発生日ではなく、元の所有者が不動産を手に入れた時点を基準に計算します。詳細を確認していきましょう。
相続時ではなく取得時から計算する
不動産の所有期間は、被相続人が不動産を取得した日から、相続人が売却する直前までの期間で判断します。
相続発生日を起点として計算するわけではない点に注意してください。
譲渡所得の税率を決める短期・長期の区分は、この所有期間に基づいて判断されます。
不動産譲渡で活用できる5つの特例
不動産を売却するときには、節税できる特例を使える場合があります。代表的な5つの特例は以下です。
1:相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例
2:居住用財産を譲渡した場合の3,000万円特別控除
3:特定の居住用財産の買換えの特例
4:長期譲渡所得の課税の特例
5:被相続人の居住用財産を譲渡した場合の3,000万円特別控除
特例を活用すると、譲渡所得税を大幅に軽減できる可能性があります。
売却前に自分のケースで使えるか確認しておきましょう。順番に解説します。
1:相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例
1つ目は相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例です。
相続した不動産の譲渡所得を計算するとき、取得費に相続税の一部を加算できる制度です。
譲渡所得は売却額から取得費や譲渡費用を差し引いて計算します。
相続で得た不動産を一定期間内に売却した場合、相続税の一部を取得費として加えられます。
条件は以下の通りです。
・相続で財産を取得していること
・相続税が課税されている財産であること
・相続開始日の翌日から相続税申告期限日の翌日以後3年を経過する日までに譲渡していること
相続した不動産は、「相続開始日の翌日から相続税申告期限日の翌日以後3年を経過する日」までに売却した場合に、取得費加算の特例を活用できます。
2:居住用財産を譲渡した場合の3,000万円特別控除
2つ目は居住用財産を譲渡した場合の3,000万円特別控除です。
不動産の譲渡所得から最大3,000万円を控除できるため、譲渡所得税を大きく減らせます。
居住用財産の場合、次の条件のいずれかを満たすことで適用可能です。
・現在居住している家屋と敷地を譲渡する場合
・転居後3年以内(12月31日まで)に居住していた家屋と敷地を譲渡する場合
・災害で居住家屋が滅失した場合、災害発生日から3年以内に敷地を譲渡する場合
・転居後に家屋を取り壊した場合、転居後3年以内または取り壊し後1年以内に譲渡する場合
自宅の場合は条件を満たしやすく、被相続人と同居していた相続人が相続後に売却する際にも活用できます。
3:事業用の資産を買い換えた時の特例
3つ目は特定の居住用財産の買換えの特例です。
主に事業用不動産の譲渡所得税を繰り延べできる制度です。
税金を免除できるわけではなく、あくまで支払いを先送りできる点に注意してください。
適用条件は以下の通りです。
・一定期間保有した事業用不動産を売却する
・売却後、一定期間内に買換資産を取得する
・取得後1年以内に事業に使用する
居住用不動産でも特例を利用できますが、居住用財産を譲渡した場合の3,000万円特別控除とは併用できません。
4:長期所有住宅用財産の軽減税率の特例
4つ目は、所有期間が10年を超える場合の軽減税率の特例です。
10年以上保有した不動産を売却すると、長期譲渡所得よりも低い税率が適用されます。
| 所得金額 | 6,000万円以下の部分 | 6,000万円超の部分 |
| 所得税 | 10% | 15% |
| 住民税 | 4% | 5% |
| 合計 | 14% | 20% |
適用条件は次の通りです。
・居住中の家屋、または居住をやめてから3年を経過する日の属する年の12月31日の家屋であること
・親族以外の第三者に譲渡すること
・譲渡した年の1月1日時点で家屋と土地を10年以上所有していること
・売った家屋や敷地についてマイホームの買換えや交換の特例など他の特例の適用を受けていないこと。ただし、居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例と軽減税率の特例は、重ねて受けることができます。
・前年・前々年に同特例を受けていないこと
10年以上住んでいた不動産を売却する場合は、ぜひ検討したい特例です。
5:被相続人の居住用財産を譲渡した場合の3,000万円特別控除
5つ目は、空き家を売却した際に譲渡所得から最大3,000万円控除できる特例です。
被相続人が住んでいた不動産で現在空き家の家屋や土地に適用できます。
主な条件は以下の通りです。
・相続直前に被相続人が住んでいたこと
・昭和56年5月31日以前に建築され、区分所有登記がなく、相続直前に被相続人以外が居住していないこと
・売却時期が平成28年4月1日~令和9年12月31日であること
・相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること
相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例とは併用できないため、適用可否は専門家と相談しながら判断してください。
不動産売却時の注意点
不動産を売却する際には、事前に押さえておきたい注意点があります。
特に重要なのは以下の2点です。
1:譲渡所得が他の税金に与える影響
2:高校無償化制度の要件への影響
事前に確認することで、思わぬトラブルを避けることができます。
1:譲渡所得が他の税金に与える影響
1つ目は、不動産売却による譲渡所得が他の税金に影響する点です。
不動産を売ると譲渡所得税が発生しますが、他の税金との関係も考慮する必要があります。
たとえば、事業用建物の譲渡では消費税の納税義務も生じるため、広い視点で税金を確認することが大切です。
相続不動産の売却を検討している場合には、早めに税理士など専門家に相談することをおすすめします。
2:高校無償化制度や社会保険料への影響
2つ目は、高校無償化制度の適用条件に影響しないか注意することです。
高等学校等就学支援金制度は、教育費の負担を減らすために国が授業料を支援する制度です。
しかし、無償化の適用には保護者の所得税や住民税の条件を満たす必要があります。
相続不動産を売却して所得が増えると、翌年の住民税額に反映される等条件を満たさなくなる可能性があるため注意が必要です。
また、譲渡所得が増えることで翌年度の国民健康保険料が上がる場合もあるため、こちらもあわせて確認しておきましょう。
令和2年7月以降は、市町村民税を基準に補助金額が決まります。
| 所得条件 | 支給上限額 |
| 154,500円未満 | 最大39.6万円 |
| 304,200円未満 | 11.88万円 |
以上2つの注意点を事前に押さえた上で、問題がないようなら不動産売却を行いましょう。
【国民健康保険料や後期高齢者医療保険料への影響】
不動産の譲渡所得が発生すると、翌年度の所得割額に影響し、以下のような負担増加が生じる場合があります。
・国民健康保険料(所得割)が増加
・後期高齢者医療制度に加入している方は、医療保険料や介護保険料が増加すること
これらは住民税と連動しており、特に高額な譲渡益がある年は大幅な増額になる可能性があります。そのため、売却のタイミングや分割譲渡の検討を含めて、事前に税理士等へ相談するのが安全です。
まとめ
相続した不動産の売却は、税金や特例、手続きのポイントが多く、迷うことも少なくありません。
譲渡所得税や住民税、印紙税などの基本的な税金を理解し、取得費加算や居住用財産を譲渡した場合の3,000万円特別控除などの特例を活用すれば、損せずに売却できます。
さらに、譲渡所得が他の税金に与える影響や、高校無償化制度への影響にも注意することが大切です。また特例は併用不可であるため、どれが最適解か慎重に判断する必要があります。
もし相続に関する判断や手続きで迷うことがあれば、相続税に詳しい千代田悟志税理士事務所へお気軽にご相談ください。
専門家に相談することで、安心して不動産の売却を進められます。